EDの注射治療の効果は？陰茎海綿体注射（ICI）や幹細胞培養上清液注射について解説

EDの注射治療とは

EDの注射治療とは、陰茎の上側左右にある「陰茎海綿体」に薬剤を注射して勃起を促す方法です。

ED治療では内服薬の使用が第一選択（※1）ですが、持病で内服治療を受けられない方や内服薬で効果が得られない方は、一つの選択肢として注射治療があります。

注射治療には、下記の2種類があります。

どちらも日本では未承認の治療ですが、医師の判断および自己責任で治療を受けられる医療機関もあります。

【医師からのコメント】

EDの注射療法は多くの国で認可が降りていますが、残念ながら日本においては未だ未認可です。

ED治療薬とは異なり気軽に施術を受けられる治療法ではないため、一般に普及していないのが現状です。

（※1 参考） 日本性機能学会／日本泌尿器学会｜ED診療ガイドライン第3版

【自宅で行う注射】陰茎海綿体注射（ICI）

陰茎海綿体注射（ICI）は、陰茎海綿体にプロスタグランジンE1（PGE1）という薬剤を注射する方法です（※1）。

性行為の直前に行う注射であり、自分で打つ必要があります。

陰茎海綿体注射は東邦大学が世界で初めて行った治療方法で、海外では認可されています（※2）。日本で生まれた治療方法であるものの、日本では治療として未承認です。

ただし、「未承認＝禁止されている」というわけではなく、医師の判断と自己責任のもと実施は可能です。

（※1 参考）日本性機能学会/日本泌尿器科学会｜ED診療ガイドライン［第3版］
（※2 参考）東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター（泌尿器科）｜陰茎注射（陰茎海綿体自己注射）

陰茎海綿体注射（ICI）の効果

プロスタグランジンE1（PGE1）を陰茎海綿体に注射すると、性的刺激の有無に関わらず海綿体の血流が良くなり勃起しやすくなります。

血管の機能が正常であれば注射後10分以内に勃起しはじめ、少なくとも30分以上は効果が持続するとされています（※1）。

日本では未承認の治療ですが、東邦大学を含む多施設で自主研究として治療が行われており、報告されている有効率は77%です（※2）。

また、海外での有効率は88%と報告されています（※2）。日本と海外のどちらにおいても、高い確率で効果が出ていることがわかります。

もし陰茎海綿体注射をしても勃起が不十分な場合は、血管に異常があるか打ち方が不適切である可能性があります。

（※1 参考）日本性機能学会/日本泌尿器科学会｜ED診療ガイドライン［第3版］
（※2 参考）東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター（泌尿器科）｜陰茎注射（陰茎海綿体自己注射）

陰茎海綿体注射（ICI）の副作用

海外では下記の副作用が報告されています。

※1

日本での副作用の発現率は、注射時の軽い痛みを除くと0%でした（※1）。

ただし、日本で実施された調査は64例（※1）とまだ数が少ないため、今後の報告が待たれます。

（※1 参考）東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター（泌尿器科）｜陰茎注射（陰茎海綿体自己注射）

陰茎海綿体注射（ICI）の費用相場

陰茎海綿体注射の費用相場は下記の通りです。

陰茎海綿体注射は保険が適用されないため、全額負担です。

また自己注射の指導に費用がかかることもあります。治療にかかる費用は病院によって異なるため、受診の前にホームページを確認しましょう。

受診の流れ

医療機関によって受診の流れは異なりますが、基本的には下記の通りです。

予約なしでは診察を受けられないおそれがあるため、事前にホームページや電話で確認しておきましょう。

医師の診察で問題がなければ自己注射の指導があり、そのまま注射を処方してもらえます。

正しい自己注射の方法を身に付けられないと、効果を発揮できないばかりか事故に繋がることもあります。わからないことがあれば、その場で聞きましょう。

また使用済みの注射器は「感染性医療廃棄物」に該当します。一般ゴミとしては捨てられないため、次回受診時に注射器はすべて返却してください。

【医療機関で行う注射】幹細胞培養上清液注射

幹細胞培養上清液（幹細胞を培養増殖するために利用した溶液の上澄み）を、陰茎海綿体に注射する治療方法もあります。

幹細胞を培養したときに放出される成長因子（エクソソームやサイトカインなど）を含んでおり、細胞の修復や血管再生、血管新生作用が期待されます。

幹細胞培養上清液は再生医療の一種で、EDだけでなくケガやアレルギーの治療、美容などさまざまな医療で用いられています（※1）。

ED治療においては、陰茎海綿体注射と同様に未承認です。医師の判断と自己責任のもとで実施されます。

（※1 参考）日本再生医療臨床学会｜幹細胞培養上清液について

幹細胞培養上清液注射の効果

幹細胞培養上清液注射によって陰茎海綿体の血管再生や血管新生が促されることで、陰茎の血流が改善し、勃起力の向上を目指します。

内服薬がEDの対症療法であるのに対して、幹細胞培養上清液注射ではEDの根本治療が期待されます。

ただし国内では未承認であり症例数も多くないため、どの程度効果があるのかわかっていないのが現状です。

海外の研究では「エクソソーム（幹細胞上清液）がED治療に役立つ可能性はあるが、ヒトへの治療効果を予測するには、ラットやマウスでの治療結果のみでは不十分だ」と報告されています（※1）。

（※1 参考）Huan Feng,Wei Peng,Zhiyao Deng,Jihong Liu,Tao Wang｜Erectile dysfunction and exosome therapy

幹細胞培養上清液注射の副作用

幹細胞培養上清液は自家由来（自分の細胞）ではありませんが、幹細胞が含まれない（※1）ためアレルギーや拒否反応といった副作用の心配が少ないといわれています。

ただし注射時に痛みや出血、腫れなどを伴う可能性はあります。

（※1 参考）日本再生医療臨床学会｜幹細胞培養上清液について

幹細胞培養上清液注射の費用相場

幹細胞培養上清液注射の費用相場は、下記の通りです。

治療頻度や回数は医療機関によっても異なりますが、週1回のペースで4回受けることを推奨している場合が多いです。

治療効果には個人差があるため、満足できるまでに4回以上かかる可能性もあります。

治療を始める前に、予算と治療費のシミュレーションをしておきましょう。

受診の流れ

基本的な受診の流れは、下記の通りです。

治療ではベッドに横になり、陰茎の根本4か所に注射を受けます。治療にかかる時間は5分ほどで、その後すぐに帰宅できます。

当日にシャワーを浴びても問題ありませんが、性行為は翌日以降としましょう。

陰茎海綿体注射（ICI）や幹細胞培養上清液注射でEDを治療するメリット

注射療法の大きなメリットは、体質的にED治療薬が効かない方や、重度のEDに悩む方でも改善が期待できる点です。

注射が陰茎に直接作用し、薬とは違う作用機序で勃起を促すからです。

たとえば陰茎海綿体注射（ICI）は、血管を拡張する薬剤を直接注入することで、性的刺激に頼らず勃起を引き起こします。

幹細胞培養上清液注射は、組織の修復や血管再生を促すことで、根本的な改善を図る再生医療です。

これらの注射療法は内服薬とは異なり、血管や神経に問題がある方にも効果を発揮しやすいメリットがあります。

ED治療の第一選択ではないものの、内服薬が合わない方にとって有効な選択肢となります。

陰茎海綿体注射（ICI）や幹細胞培養上清液注射でEDを治療するデメリット

陰茎海綿体注射（ICI）や幹細胞培養上清液注射には以下のデメリットがあります。

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

未承認のため万が一のときの保証がない

陰茎海綿体注射や幹細胞上清液注射によるED治療は日本国内では未承認のため、万が一重篤な副作用が生じた場合に、国の救済制度（医薬品副作用被害救済制度）が適用されません。

医薬品副作用被害救済制度は、厚生労働省とPMDA（医薬品医療機器総合機構）が運営する制度です。

医師の処方のもと、承認された医薬品や医療機器を適正に使用した場合に限り、治療費や障害年金などが支給されます。

陰茎海綿体注射（ICI）や幹細胞培養上清液注射はこの制度の対象外のため、万が一トラブルが起きても自己責任で対応しなければなりません。

効果が保証されていない

陰茎海綿体注射や幹細胞上清液注射は、日本では未承認かつエビデンスが限られている治療です。

そのため誰にでも同じような効果が現れるとは限らず、治療効果にばらつきがある可能性があります。

たとえば、乳歯から採取した幹細胞の上清液をED患者38人に注射した研究では、97％に勃起機能の改善が見られました（※1）。しかし、同研究は参加人数が少なく、比較対象のない小規模なものです。

効果があるといわれているものの、すべての人に効果があるとは断言できないのが現状です。

（※1 参考）Efficacy of a cultured conditioned medium of exfoliated deciduous dental pulp stem cells in erectile dysfunction patients – PubMed

費用が高い

陰茎海綿体注射や幹細胞培養上清液注射は、費用が高くコストパフォーマンスが悪い点がデメリットです。

治療内容にもよりますが1回あたり数万円〜十数万円かかることも珍しくなく、複数回の治療で数十万円になることもあります。

一方、ED治療薬は1錠あたり数百円～千円程度で購入できるため、コスト面では圧倒的に安価です。

高額な注射治療が必ずしも効果を保証するものではないことを考えると、コストパフォーマンスが低いと感じる方も少なくありません。

陰茎に針を刺す恐怖を乗り越える必要がある

陰茎に針を刺す治療には、どうしても心理的な抵抗感が生まれます。

実際には、細い針を使うため痛みはほとんどなく、数秒で終わる処置とされています。それでも「陰茎に注射する」と聞いただけで、身構えてしまうのはごく自然なことです。

なかには想像するだけで不安になったり、ネガティブな気持ちになったりしてしまう方もいるでしょう。

とくに初めての方にとっては、病院に行くまでの一歩が大きな壁になることもあります。効果が期待できる治療であっても、精神的なハードルが高い点は見逃せないデメリットです。

ED治療が初めての方は、まずは内服治療を検討しよう

ED治療が初めての方は、注射治療よりも先に内服治療を検討しましょう。ED診療ガイドラインでは、ED治療の第一選択は内服薬治療としています。

ED治療薬を性行為の前に飲むと、陰茎への血流が改善し勃起しやすくなります。代表的なED治療薬は下記の3種類です。

これからED治療を始めようと考えている方は、内服治療を検討しましょう。

【医師からのコメント】

我が国においてEDの注射治療は一般的ではなく、取り扱っているクリニックもあまり多くはありません。

また頻度は少ないものの、注射によって「持続性勃起症」という重篤な副作用を起こす可能性もあるため、ED治療の第一選択とするにはリスクを伴います。

ED治療をお考えの方は、注射よりも先に内服治療を検討するようにしましょう。

まとめ

EDの注射治療は自宅で行う「陰茎海綿体注射（ICI）注射」と、医療機関で行う「幹細胞培養上清液注射」の2種類があります。

どちらも国内では未承認ですが、治療を受けられる医療機関はあります。

ただし、あくまで他の治療法が行えない・無効なときの選択肢ですので、まずはED治療薬を用いた改善を試みましょう。